今回、何故目的地を金沢にしたのかと言いますと・・・。
元来、読書好きな私ですが、今年読んだ中で最も心に残った作品。井上靖著 北の海。
かつて氏が高校受験に失敗し、浪人生活を送っていた年の夏。突然母校の道場で出合った四高生、蓮見。(練習量が全てを決する柔道・・・)
彼の言葉に魅了され、誘われるがままに金沢へ出かけ、ひと夏を過ごす。個性的な四高生たちに囲まれ、とても濃厚な日々を過ごされました。
四高、犀川、香林坊・・・。その土地を自分でも訪ね、更に作品の中に入りこみたいと思っていました。そんなこんなで金沢へ。
先ずは四高記念館。
赤レンガの建物、展示物に、血気ある学生たちの生活を垣間見つつ、氏を偲び、ひと時を過ごしました。感動・・・
http://www.pref.ishikawa.jp/shiko-kinbun/ 石川県の近代文学資料も多く展示されていますので、ご興味ある方は是非どうぞ。
それから歩いて兼六園へ。まあ、一応金沢といえば・・・ねえ。幸い当日は無料開園されていました。ラッキー!
そこから市内を走るバスに乗り犀川にかかる桜橋へ。
若き井上氏が、下宿から道場へ通うのに渡った橋。そして井上氏をして品格あると評した川の水面。その橋の上でしばし立ち止まり、景色と空気を堪能する・・・。
橋を渡りきったところからW坂と呼ばれるジグザグの坂を上ると、お寺が密集した(寺町)へ。その付近にあった柔道部員、杉戸の下宿に同宿した井上氏も、練習で疲れた体を引きずりながら上った坂。途中に文学碑もありました・・・。金沢の町を愛する氏の心情が見て取れますね。
以下、
井上靖 流星
高等学校の学生のころ、日本海の砂丘の上で、ひとりマ
ントに身を包み、仰向(あおむ)けに横たわって、星の流
れるのを見たことがある。十一月の凍った星座から、一
条の青光をひらめかし忽焉(こつえん)とかき消えたその
星の孤独な所行ほど、強く私の青春の魂をゆり動かした
ものはなかった。私はいつまでも砂丘の上に横たわって
いた。自分こそ、やがて落ちてくるその星を己が額に受
けとめる、地上におけるただ一人の人間であることを、
私はいささかも疑わなかった。
それから今日までに十数年の歳月がたった。今宵、この
国の多恨なる青春の亡骸(なきがら)――鉄屑(てつくず)
と瓦礫(がれき)の荒涼たる都会の風景の上に、長く尾を
ひいて疾走する一個の星を見た。眼をとじ煉瓦を枕にし
ている私の額には、もはや何ものも落ちてこようとは思
われなかった。その一瞬の小さい祭典の無縁さ。戦乱荒
亡の中に喪失した己が青春に似て、その星の行方は知る
べくもない。ただ、いつまでも私の瞼(まぶた)から消え
ないものは、ひとり恒星群から脱落し、天体を落下する
星というものの終焉のおどろくべき清潔さだけであった。