久しぶりに読み返してみる・・・。
若い頃より敬愛してやまない沢木耕太郎氏が、ご自身の亡父の介護、そして死去を通し見聞き感じた父の姿を文章に綴った作品「無名」。
古今東西、母親への「エクレイム」として綴られた作品は数えきれませんが、父の生涯を振り返り綴られたものは圧倒的に少数だと感じます。
タイトルの通り、世間的には全く無名だった氏の父。大きな事業を起こしたわけでもなく、社会貢献を通して名を遺した訳でもなく、ただ読書と酒を愛し終えた人生・・・。
しかし、考えてみれば「人」として生を受け、人生と呼ばれる旅路を生き続けても、ほとんどの人が社会的には、或いはこの星に流れる時間の中では「無名」として生涯を終えてゆくもの。無論、私も然り。
書中、「父」の残した俳句も紹介されています。10年ほど前でしょうか、最初に読んだ時、最も印象的だったのがこちら・・・。
薔薇の香や つひに巴里は 見ざるべし
生涯、そして晩年。何かに淡く憧れ、自らを律するダンディズムを持ち・・・。こんな句を残せる人生を送れたら「無名」として生きる人生も悪くない。