先日ご紹介したBlack or White・・・。
作中に登場する北京の街かどで出くわした「とびきりの美貌」を持つ枕売りの露天商。14,5歳の少女、梅梅・・・。北方騎馬民族の血を複雑な形で受け継ぐ子孫たる由縁だろうか華北の人々は概ね高身長で手足もスラリと長いはず。・・・。
そんなことを想い北京の街で枕を売る少女の容貌を勝手に想像しながら読み進んだ・・・。
とびきりの美貌・・・。言葉としては使い古された感もあるが、実際、そんな印象を受ける異性(男性にとっては女性)に、出会う機会は生涯そんなに無いのではと思う。
勿論、今までお付き合いをしてきた異性に対してはある一定基準以上に「カワイイ」とか「キレイ」とか、そういった感情を抱いてきたことは事実。ニンゲンも動物である以上、適齢期になれば美しくなる様に神が造り給うている。街ゆく女性の中に「美人」は少なくない。しかし、「とびきりの美貌」と感じられる異性となると・・・。
四半世紀前、中国は河南の小都市で出会った一人の少女。彼女が私にとっては49年生きてきた中で出会った唯一とも言える「とびきりの美貌」だったと確信する。
当時、中国では街角で芸を披露し、観衆から小銭を受け取る所謂「大道芸」がよく見られた。
ある日、近所の市場へ買い物に出かけた帰り道。喇叭の音と人だかりに誘われ近づいてみると、数名の少年が「演奏中」。お世辞にもウマいとは言えなかった筈だが、暫く足を止めて聞いていた。彼らを囲む群衆の中にその少女はいた。彼女だけが浮き立つほどの美貌。地味な服装が好まれた時代だが、彼女はスポットライトを浴びているかの如く眩しささえ感じた。もう、演奏など耳に入って来ない。一瞬でも視線を外すのが惜しいと思える程、彼女の姿に見入った。
芸が終わり、人々が散りはじめる。どうしよう・・・声をかけるべきや否や・・・。当時20歳の私に妙な下心など微塵もなく、ただ彼女と言葉を交わしてみたかった。
歩き出した彼女の背後から勇気を振り絞って声をかけた。
「突然失礼します。私はL大に留学している日本人です。怪しい者ではありません・・・。」
暫し立ち話。何を話したのか細かく思い出せませんが、別れ際、微笑みながら名前と通っている学校を教えてくれた。
インターネットはおろか家々に固定電話すら普及していなかった時代。その後に再会する機会もなく留学生活を終え帰国した。
実は今でも彼女のフルネームを覚えている。そしてその「とびきりの美貌」も。
今年で50歳を迎える私にとって、彼女こそ「梅梅」。その彼女となら黒い枕を選んで悪夢の中に魘されてみるのも・・・悪くないと思える。