司馬遼太郎著「故郷忘じがたく候」・・・。数日前、その主人公でもある沈寿官氏(14代)の訃報に接しました。
すぐにでも頁を開きたかったのですが、読み終えなければならない他書を片付けた後となってしまったこと。両故人に申し訳なく感じております。
沈寿官・・・氏の名前をご存じの方は、焼き物の世界に精通しておられるか、司馬遼太郎氏に心酔しておられるか、そのどちらかと察します。私は後者のひとりです。
今を遡ること約400年。慶長の時代、朝鮮の役で慶尚北道より「拉致」され日本に渡って来た工人の末裔。その14代当主の半生を司馬氏の視線で振り返り、沈氏の言と共に綴られた作品です。
人にとって故郷というのは何なのか?故郷を慕う心とは何者なのか?を改めて再考させられました。
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つい最近までインターネットやケイタイ電話など世に存在しておらず、私が異郷に暮らした折も母は折に触れて手書きの手紙を送ってくれました。
その中・・・
「(前略)・・・将来、仕事も落ち着いたら四季ごとに故郷へ帰り、数日間滞在して俳句でも作れるような日々を迎えたいものです。過疎の村ではありますが私にとっては、どんな街より、どんな国より恋しい土地なのです・・・後略」
そんな文章が書かれていたことを思いだしました。
残念ながら母は仕事に追われるのみで生涯を終えてしまいました。最晩年、病を得、入院した後も
「田舎へ・・・帰りたいなぁ」
と頻繁に漏らしていました。
気の毒に思うと同時に、ひとり息子として、その程度の願いさえ、かなえてやれなかったことへの申し訳なさや不甲斐なさを感じています。
私にとっては、今を生きるこの地が、生まれ育った土地です。しかし、人として生れ落ちるまでを辿り辿れば混じり合った血や地のルーツは複雑であり、故郷と呼ぶべき土地は一つではないとも感じます。
再読後、久しぶりに深山に囲まれた母の故郷を訪ねてみたくなりました。
「故郷忘じがたく候」、おすすめです!そして・・・
あなたにとって「故郷」とは?