今日の朝刊紙面によると尾道の林芙美子記念館がリニューアルされたとのこと。 今年の正月、O氏と歩いた折には閉館中だったので、その準備段階だったのでしょう。ファンの端くれとしては是非、足を運んでみたいと思っています。
旅を楽しむ「材料」は人それぞれ。グルメであったり、名所旧跡であったり、そこに住む人であったり、、、。その一つとして文学を据えてみるのも中々良いものです。
芙美子といえば代表作が放浪記。その一節
「海が見えた。海が見える、、、、、」
は有名で石碑にも刻まれています。確かに尾道への再訪で感じた懐かしさが表現されているものだと思います。
私の蔵書は気に入ったフレーズがあるページに折り目をつけており、放浪記のページ中にも沢山の「折り目」があります。
その中、尾道を描写した中では以下のシーンも印象的です。
以下引用
「、、、、、夜は母と二人で、夜の海辺へ出て、露店でうどんを食べて済ませる。家にいると借金取りがうるさいというので、また、暗い海水浴。
海は汚れてどろどろ、葬式の匂いがする。そのうち、ええこともあろうぞ....母がふとそんなことをいう。私はさんばしの方までおよぐ。燐が燃える。向島のドックで、人を呼んでいる声がしている。こんなことでは何の運命もない(中略)やがて石段に戻って、素肌にぬるい着物を着る。肌がぴいんと締まってきた気がする。自然な温かい気持ちになり、モウレツに激しい恋をしてみたくなる、、、、、、」
上記引用
恋に敗れ関東大震災で被災し、まともな仕事にありつけない。多くの挫折を経験した芙美子が尾道に帰ったことを後悔しつつ、後に代表作のひとつとなる「風琴と魚の町」の執筆に励んだ頃の描写です。思えばその頃の彼女と当家の長女は同じ年頃です。生きている時代の違いはありますが、芙美子は如何に壮絶な経験を潜り抜けてきたか。そして幼少期からの延長線上に続いた苦しみや怒りをも才能を育む肥やしとし得たことこそ芙美子の天分と言えるでしょう。
真似して尾道水道で泳ぐのは勘弁いただくとして桟橋のベンチに腰掛けて本のページを開き暫し芙美子との対話を楽しませていただきたい所存です。