通勤路で小さなボタンを拾った。職場へ急ぐ途中、本来なら目に入っても無視するか蹴飛ばす対象だが歩を止め腰を屈めそれを拾ったのには訳がある。
そのボタンは地元中学の制服に使われるもの。じゃれ合いながら通学する生徒の学生服からちぎれ落ちたのだろう。その大きさから袖口用だと察せられる。同校は私にとっての母校でもある。手のひらに収めたボタン上に刻まれた校章を懐かしく眺めながら自身が中学生だった時代に思いを馳せた。髪の毛が薄くなり、気づけば鏡の前でため息をついている初老の私も四十年前は中学だったのだ。
語れば長くなるので割愛するが、ある「事件」以来、全ての学業から目を背けた。宿題、提出物、試験勉強…全て無視。その結果、成績は惨憺たるものだったが学校は好きだった。毎朝、早くから登校した。賑やかな仲間達と過ごす時間も楽しかったが誰もいない教室で過ごす静謐な時間に心地良さを感じていたのだと思う。
傍らを通り過ぎて行く中学生達の姿、そして一センチ程のボタンを眺めながら、やけくそと開き直りの中に過ごした中学時代を思い出した。それでも許されるのが青春を生きる若者が持つことの許される特権だと言いたい。