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趣味でエッセイを書いてます。近年、中国との関係がギクシャクしてますね。昨年とあるコンテストで賞をいただいた作品を紹介します。人と人との交流って国や民族が違っても、そんなに難しく考えることはないのかも知れません… タイトル 西双版纳から届いたエアメール 世の中にデジタルカメラ、更には携帯電話という利器が登場して以来、写真を撮る機会は格段に増えた。今思えばその昔、フィルムカメラの時代には現像やプリント代金も気になり、シャッターを押すという行為にもそれなりの気合が込められていた様に感じる。 1987年4月から1988年3月までの一年間、河南省洛陽市に語学留学した。当時の中国ではカメラを所有していない方も多かった。それ故、観光地や景勝地に行くと出張写真屋さんが店を構え記念写真を撮ってくれる商売が繁盛していた。カメラが一台有ればすぐに開業できるのも魅力だったのだろう。若い「経営者」も多かった。 留学が決まり日本を発つ折、父は愛用のカメラを持たせてくれた。当時でも既に相当年季の入った物だった。そのファインダーを覗きながら一枚、また一枚と写した写真は自室の押入れの中で眠っている。出会った方を撮影した際にはその住所を聞いて後日郵送した。それが縁で帰国後も文通の続いた方もいた。しかしその線もいつの日か途絶えてしまった。 インターネットなど普及する以前。離れた人と人の心を繋ぐ術が文通のみに限られていたあの頃故、仕方のないことだ。しかし私の送った写真が曽遊の地で今を生きる人々のアルバムに収まっているかもしれない。そう思えば嬉しい気持ちになる。 私も思い出が恋しくなるとアルバムを取り出し暫し時空を超えた旅を楽しんでいる。そしてそれらの写真に写る風景や日付、まだ幼ささえ残る自身の顔を見る度に歳月の流れる速さに驚かされる。気付けばあれからもう三十五年が経ってしまったのだ。 カリキュラムを終えてビザが満了するまで一か月半程の期間を使って雲南省を旅した。最後の訪問地となったのは西双版納。省都の昆明からバスに乗り途中の町で二泊を要する行程だったと記憶している。旅の夜を過ごした町の名前を記録しなかったことは悔やまれるが、乗客の方々と一緒に過ごした時間は何とも楽しいものであった。 いよいよ西双版納に到着。熱帯ならではの植物や果物と眩しい太陽、民族衣装を纏った少数民族の人々の姿を目にし、ここも中国か!と驚きながら約一週間を過ごした。 美しい寺院や美味しい料理もさることながら最も深く思い出に残ったのは、一人の青年との出会いだったと言える。 昆明に戻る前夜。南国ならではの空気に名残惜しさを感じながら、街を散歩していた。ロータリー交差点近くにあった公園のベンチに座って時間を過ごしていた時、その青年が声をかけてきたのだ。 「写真を撮らないか?」 例の出張写真業者だ。いつもは旅先で声をかけられても断っていたが、その時は何故か撮ってもらうのも悪くないと思えた。自由な旅の最終章を迎えつつある自身の姿を現地に生まれ育った青年のカメラで撮影してもらうという行為自体に魅力を感じたのだろう。そして私を見て中国人だと思ってくれたことも嬉しかった。 そこで自分が外国人であること。そしてこれから昆明に戻り香港経由で日本に帰国することを伝えた。勿論、エアメールでの送付をお願いする故、国内郵便との差額は負担するつもりであることも合わせて伝え彼の反応を待った。 暫く思案した後、承諾してくれた。彼にとっては初めての外国人客。そして初めて送るエアメールとのこと。しかし私はその時、彼の風体も含め日本まで届かなくても仕方ないとも思っていた。或る種の賭けを楽しむ心境に似てたとも言えようか。 撮影後、彼は私の傍に座り込んだ。そして二人で暫くおしゃべりをした。将来の夢、交際している女性のことなど。国や民族は違っても若者同士が交わす会話の内容など大差あるものではない。 やがて夜も更けた。写真代を含めてもおそらく300円程度だったであろう代金を渡し公園を離れ投宿していた招待所に戻った。 それから約一週間後、日本での生活が始まっていた。訪中経験の無い家族や友人からの質問攻めの日々が暫く続いた。母校へ復学の手続きを済ませ新しい学期の授業にも慣れてきた頃、一通のエアメールを受け取った。 それまでにも恩師や中国の学生達から何通かの封書が届いていた。今日は誰からの郵便だろう?と思いながら薄茶色の封書を見て驚いた。送り主はあの出張写真屋の青年だったのだ。 早速開封してみると、小さな噴水の横に立つ私の写真。そして便せんに書かれたメッセージも添えられていた。 無事届いた嬉しさもさることながら些かでも青年のことを疑った自分の小ささを恥じた。 その後も多くの国を訪ねる機会を得た。沢山の写真がアルバムに収まっているが、雲南省の最南端、西双版納から届いた一枚は私にとって特別な存在となっている。その写真は青春時代の一時期を過ごした中国という国が私に届けてくれた贈り物の様にも思えるのだ。 35年前。当時まだ20歳の学生だった私が写真の中では色あせることなく少し首を傾けてポーズをとっている。
by cr80b1
| 2023-04-11 07:25
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