ホテルに戻ってみるとロビーはダンスパーティに参加するために集まって
きた地元の方々で賑わっていました。
私も一旦部屋に戻り顔を洗って出直しました。会場となる二階の食堂から
は音楽も聞こえてきます。階段を昇って中を見回すと程なく彼女を見つける
ことができました。少しおしゃれをして明るく手を振る笑顔を、今でも鮮明に
思い出します。
全く素養の無い私に簡単なステップを教えてくれ、一緒に何曲か踊りました。
ダンスの合間には隣り合って椅子に腰掛け、お互いのこと、旅の話
など楽しく語り合いました。ご自身はモンゴル族であること、盛大に開催される
ナーダムの祭り、零下20度以下になる寒い冬、将来の夢・・・・
若者同士らしい会話に時を忘れ楽しい時間を過ごしました。
更にもう一泊を二連で過ごし、その翌早朝の列車で町を離れました。
ホテルをチェックアウトしたのはまだ日の出前。残念ながらフロン
トに彼女の姿はありませんでした。しかしその日担当の服務員さんが
彼女から預かった手紙と記念品を渡してくださいました。
旅を終えてからも彼女との文通が暫く続きました。メールやネットの
無い時代。投函して返信を受け取るまで随分長い日にちだったと思いま
すが毎日楽しみに待っていたものです。
容姿からは想像できない力強い筆跡で書かれた沢山の書簡。
誕生日にと贈ってくれた新华词典(辞書)。今でも大切に(思い出の箱)
に保管しています。
あれから20年近く。出会いは一期一会。彼女が現在どこで、どんな生活
をしているのか全く知る由もありません。今となってはそのホテルが
あった場所すら分からないでしょうし、彼女は私のことなど覚えてないかも
しれません。私もこの記事を書くに際し、久しぶりにあの町を、あの人を
思い出しました。
過ぎ去りし日々・・・。二連浩特・・・。草原の町、国境の町。これからも
この町の名前を聞く度、吹き抜ける風の音、地平線まで続く草原を
思い出すと共にモンゴル族らしい美しい名前を持つ女性を思い出すことでしょう。